
請求できる損害賠償の把握と交渉の開始時期
まずいつ示談交渉をスタートさせるのか?
事故後、入院・通院期間が一段落して、医師が「これ以上医学的に回復が見込めない」と判断して治療をストップしたらスタートです。
また、その時には医師に「後遺障害診断書」の作成をお願いしましょう。
この診断書の内容によってその症状が後遺障害別等級表の何級に該当するのか判断されます。
因みに、等級認定を行うのは損害保険料率算出機構の調査事務所となります。
そして、この認定は書類だけの審査で決まるのが通常であり、医師が書く後遺障害診断書が重要となってきます。
医師には具体的な症状を伝え、詳細な症状を診断書には書いてもらいましょう。
後遺障害の等級
では、後遺障害の等級はどのようになっているのか?
下記の表を参考に、自分の症状が何級の後遺障害に当てはまるのか?確認しておきましょう!
「後遺障害別等級表・労働能力喪失率(H22.6.10以降発生した事故に適用)」
どのような損害が請求できるのか?
具体的に説明していきます。
大きく分けると下記の3項目になります。
- 積極損害
- 消極損害・逸失利益
- 慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料)
後遺症の残らない傷害事故との違いは?
将来の介護料がプラスされる(但し、自賠責基準では規定はない)
逸失利益がプラスされる
後遺症による慰謝料がプラスされる
但し、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士会基準がありますので、逸失利益や慰謝料などでは請求金額に違いが出ます。
自賠責基準と弁護士会 基準例
後遺障害の場合の示談交渉ポイント!
後遺障害の場合も通常の傷害事故と同様で、保険会社が基準とする支払い基準は弁護士会基準とまではいきません。
そこで、少しでも弁護士会基準に近づけるために、まずは一度自分の場合の賠償額がいくらになるかを計算してみるといいでしょう。
そのうえで交渉を開始してみて下さい。
後遺障害の場合は、計算が複雑かつ高額となります。
自分では難しいという方も多く、弁護士に依頼する方もいらっしゃいます。
因みに、弁護士が交渉、または裁判となった場合には、弁護士会基準(裁判所基準)での請求が可能となるでしょう。
しかし、弁護士に依頼するとなると弁護士費用がかかるからと悩まれる方もいるでしょう。
それも含めて弁護士に相談する事をお勧めします。
後遺障害の場合の計算例
では、実際にシュミレーションしてみましょう。
@積極損害+A消極損害(逸失利益含む)+B慰謝料(入通院&後遺症)×(100-過失割合)÷100
<例>後遺障害がある傷害事故(弁護士会基準)
条件
車同士の事故
被害者は片手を失う後遺症を負う
過失割合
被害者 | 10% |
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加害者 | 90% |
被害者35歳男性会社員で月収40万円
事故による休業期間 | 11ヶ月 |
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入院 | 280日 |
通院 | 95日 |
@積極損害:合計:425万9900円
入通院治療費 | 210万円 |
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入院雑費 | 42万円(1,500円×280日) |
付添看護費 | 170万円(職業付添150万円、近親者付添20万円) |
入通院交通費 | 3万9900円 |
A消極損害:合計:6432万3838万円
休業損害 | 440万円=月収40万×休業期間11カ月 |
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逸失利益 | 後遺障害等級5級で労働能力喪失率は79% |
被害者は35歳なので就労可能年数が67歳までの32年間
ライプニッツ係数が15.8027⇒40万円×11カ月×0.79×15.8027=5992万3838円
B慰謝料:合計1780万円
入通院慰謝料 | 入院慰謝料算定表から196万円〜312万円の範囲となり、280万円で話し合いがつく |
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後遺症慰謝料 | 1500万円で話し合いがつく |
『損害賠償額』=@+A+B×(100-被害者過失割合)÷100
=8638万3738円×90÷100=7774万5364円
但し、この例は弁護士に依頼したうえで弁護士会基準で算出しています。
3つの支払い基準の中では一番高額となる計算です。
弁護士に依頼しない場合
相手の保険会社は保険会社の支払い基準で算出します。
これよりも低い金額を提示してくる事になります。
また、中には保険会社基準よりも低い金額を提示してくる場合もあります。
きちんと資料を添えて支払い基準をもとに算出した正当な損害賠償額を提示して交渉して下さい。
繰り返しになりますが、まずは自分で弁護士会基準を用いて計算してみましょう!
そして、保険会社がどのように計算しているかを聞き、比較してみて下さい。
損害賠償額の決めどきは?
弁護士会基準で算出した額の70〜80%程度の金額であれば示談に応じる範囲ではあります。
もう少し自分で交渉を行うか、弁護士に依頼すれば、弁護士会基準の計算に応じてくれる可能性もあります。
しかし、訴訟以外の示談交渉では、被害者側も譲歩して均衡を図る必要があります。
きっちり弁護士会基準での損害賠償額が取れるとは限りません。
つまり、双方の提示額の差が2,3割などの場合、中間あたりまで譲歩するなどを考えなくてはいけません。
また、後遺症が残るような事故では損害賠償額が高額となり、交渉次第では最終額に大きな開きがでます。
重度の後遺症で高額となる場合には、弁護士に依頼したほうが高額な請求が可能となりますので依頼を検討してみて下さい。
その場合、弁護士費用が気になるところですが、実際には弁護士費用を差し引いても依頼したほうが自分の手元にくるお金が高くなるケースが多くあります。
また、ケースによって計算が異なるため難しく感じたり、決めどきの判断が難しい、重い障害を負って将来の介護費用の請求をする場合には、弁護士などに一度相談することをお勧めします。